おまえは自転車のかごに乗ると、いつもその短い可愛い、グーのようなまん丸のお手手をカゴの前にちょこんと置いて、まわりをキョロキョロ見てましたね。そして、自分の気になるものがあるとのこの背中に手を置いて、のこを踏み台のようにして、立って見ようとしたり・・・。
「危ないから・・・」っておまえに言っても、一旦はやめても、また興味のあるものがあるとグッと首を伸ばして立ち上がろうとしたりして。だから、おまえを乗せるときは、ゆっくりとした速度で走ってたんだ。そののんびりとしたスピードで見る街の景色が、ふだんだったら見落とすようなものに気付いたりして良かったんだよ。
だけどね。のこはほとんど景色を見ないんだ。
いつもカゴの中では寝そべって、街の景色にはほとんど興味がないみたいなんだ。目的地の公園とかにしか興味がないみたいなんだ。
くろ、おまえだからだったのかな。いっしょに楽しめたのは。
おまえがいないこれから、のこといっしょに景色が見たいと思っているのに、そんな楽しみももうなくなってしまうのかな。。。
私のもとから、何もかもがなくなろうとしているよ・・・。
今宮戎十日戎・新世界(浪速区)つづき・・・
3〜4匹のある種類の犬を連れた飼い主が「ほらほら、ダックスが自転車乗ってる〜」と自分のところの犬をけしかけ、おまえたちに吠えさせるのを見て、私がイラッとさせていたら、ふだん、そんな犬になど知らん顔して何も言わないおまえが、代わりに怒って吠えていましたね。
私がその飼い主に何か言い出すんじゃないかと察してくれたんだね。おまえが先に吠えてくれたおかげで私は冷静になることができたんだよ。
せっかく道行くお姉さんがおまえたちを見て微笑んでくれたのに、おまえはしばらく不愉快な表情のままでしたね。
今宮戎をあとにして、だんだんと飽きてきてたみたいだけど、こっちの新世界・通天閣界隈のほうに来て、また街並みが少し変わると、この新世界・通天閣のそば独特の賑やかさが気に入ったのか、おまえはまた、ずっと背を上げて周りをいろいろ見渡していましたね。
おまえは、生まれは帝塚山だったけど、私といっしょに暮らし、育ったのは西成の下町だったものね。
確かにこの街は雑な街だし、私もときどきそんなのが嫌になるときがあるけど、この街にこそ、おまえを温かく迎えてくれる、おまえの居場所があるんだよ。
だから・・・いつでも帰っておいで。。。
あまりにもの人と露店の賑わいにおまえはずっとキョロキョロしっぱなしでしたね。
おまえたちが自転車のかごの中で大人しくしているのが、珍しかったのか、それとも可愛く見えたのか、おまえたちのことを写真撮ってくれたおじさんがいましたね。
私はそのことがすっごく嬉しかった。
そのおじさんが撮った写真に、おまえたちがどんな表情で写っているのか、私は見たいんだよ。私が見たこともないアングルで、おまえたちはほかの人たちからするとどう映っているのか見てみたいんだよ。
ずっとかごの中に乗っているのに、だんだんとおまえの顔が退屈になってきているのがわかったよ。
人ごみの中を歩くことができるか、ケガさせられたりしやしないかと心配もあったけど、昼間だからかそれほど人も多くなかったから、数百メートルほど露店の並ぶ通りを歩きましたね。
たくさんの人と、露店からする呼び込みの声や音、食べものの匂いに、おまえはずっと鼻を伸ばしてクンクンさせながら、右を見たり左を見たりしていましたね。